写真展開催にあたって

 

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母がアルツハイマー型認知症と診断され、今年で10年経ちます。この10年で認知症に対する社会環境もずいぶんと変わったように思います。当時の認知症の報道というと症状の進んだ方が主に取り上げられていたように思います。そうした情報によって私自身も極端な先入観で診断結果を受けとめていました。「これから先、どうしたらよいのだろう」という不安でいっぱいでした。それまでは、何もかも母まかせにしており、そのなかにペットの世話もありました。幸い認知症薬が効をなし、症状の一時的な改善、進行の遅延を母はできました。認知症について早期発見、早期治療が謳われていますが、まさしくその通りだと思います。
しかし、残念ながら認知症の進行は止まりません。だからといって辛いことばかりでもありません。この写真展では結果的に私がほっとする瞬間を撮った写真が多く展示されています。 幼い頃から母のそばには動物がいました。潮来に住むようになってからは、一番多いときで猫七匹、犬二頭、加えて一時はケガをしたカラスが一羽ということもありました。母は動物たちの世話をしながら私によく「威張るな」、「弱いものいじめをするな」と言っていました。気丈だった母が動物たちのように誰かが世話をしなければ生きていけなくなっていきます。母と動物たちの世話の合間、合間に現れる「いいな」と思う瞬間があります。その瞬間を自分のために撮った写真です。
母も私も写真を撮るという習慣がほとんどありませんでした。あるとき、その私に友人でカメラマンのシギー吉田さんが「これでお母さんの写真でも撮ったら」とカメラをくれました。吉田さんは母と私のことをよく知る一人です。カメラなど、持ち歩くとは夢にも思っていませんでした。そのカメラで遊ぶような感覚で母の写真を撮りました。多くは猫と戯れる姿です。その写真をカメラのお礼かたがた吉田さんに見せると、なぜか気に入ってくれました。
写真の善し悪しは私にはわかりません。ただ、私たち母子だけではないと思いますが、認知症患者と家族の辛い状況のなかにもよい思い出があります。そのことを知っていただきたいのと、よい思い出が多くなるためには社会環境の整備が大切であることをお伝えできればと思います。
この写真展を主催してくださったNPO法人認知症患者と家族の会うさぎにこの場をお借りしてお礼申し上げます。

 

平成27年1月1日

松原克志

【プロフィール】

松原克志 まつばら・かつし
常磐大学国際学部 教授
北九州市生まれ。横浜市内の小学校、中学・高校は東京都内の男子校を卒業。上智大学、東京工業大学大学院修士課程で化学を学び、同大学院博士課程社会工学専攻修了、1993年に博士(学術)取得。1990年から1996年まで東京大学先端科学技術研究センターに出入り。1990年STS Network JAPANの設立に参画し、以来、科学技術と社会(STS)に取り組む。某研究者より「問題としての松原」と命名される。